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半年後。
望は夜勤の仕事で働いていて。
昼間は倫太郎と過ごす日々を送っていた。
ある雨の日、病室に向かっていると…
その後ろ姿を見ていた看護婦が、思わず呟く。
「毎日毎日、健気ね…
あのコもう、無理だろうに」
「しっ、聞こえるわよ」
聞こえていたのか、いないのか…
望は倫太郎の寝顔を眺めると。
その手をぎゅっとして、項垂れた。
でもすぐに。
「あ、爪伸びてきたわね。
すぐ切ってあげる」
そんな生きてる証を愛しそうに見つめながら、パチンパチンと処置を始めた。
ところが手を滑らせて、倫太郎の手がぼとりとベッドに落ちてしまい。
その瞬間、あの日の恐怖が…
倫太郎がいなくなると思った恐怖が甦る。
「ねぇ起きてよ、倫太郎…
あんたはこんなとこで大人しくしてる男じゃないでしょ?
ねぇっ、また退院させろって暴れてよっ。
また暇人?って減らず口叩いてよ!」
ぼろぼろ涙が溢れ出して…
どれだけ頭を下げる羽目になっても。
どんなに手を焼いたとしても。
元気ならそれだけでよかったのにと、痛感する。
涙で爪切りが出来なくなった望は、そのままベッドに泣き伏せて…
いつしか眠りに落ちていった。
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