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一時間目が終わったばかりだというのに、陸は一心不乱にお弁当にがっついている。いくら早弁といっても、時間が早過ぎないだろうかと心配になる。
学食もあるし、購買部に行けばパンも売っている。だけどそれは昼休み限定だ。昼までもつのか?率直な疑問だ。
お母さんが作ったと覚しきお弁当を、せわしなく食べる陸。今どき流行の小顔に、仔犬のようなつぶらな瞳、ぷるんと柔らかそうな唇。女子達が可愛いと騒ぐのもすんなり頷ける。確かに陸は可愛い。おっと、ほら、慌てて食べるから、唇の端っこにご飯粒が…。
――食べてあげようか?その唇と一緒に……。
頭の中に浮かんだ映像にドキリとする。陸の口の端に付いているご飯粒を直接食べる自分。陸の唇と一緒に。
「真人、食べる?」
俺の心を読んだのか?上目遣いで俺を見上げ、そんな事を聞いてくる陸。最近、陸はよくこういう視線を俺に寄越してくる。
いっ、いいのかっ?!食べても…。
「えっ、あっ、おっ、おお、いいのか?」
「うん。すっげー欲しそうに見てたもんな。ほら。」
差し出されたのは美味しそうな唇……、ではなくてタラコのおにぎりだった。
うん、美味しい。美味しいよ。美味しいんだけどね。いまだに陸の口の横に付いているご飯粒の方が、何故だか美味しそうに見えてしまうのは……気のせいじゃない、かもしれない。
―end―
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