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「あ、ちょっとで良いよ。ちっちゃい注射器一本分でいいから」
「……」
「大丈夫、全然痛くないから。黙って目つぶってたら、三十秒あれば済むから。ね、人助けと思って」
「人助けって、フツーの人はそんなお願いしないよ」
「まあね。というか私、人間じゃないの」
「は?」
彼女の瞳が笑って、当ててみて、と言った気がした。
「……流血プレイの好きな変態さん?」
「変態じゃないから」
「じゃあ、血液マニアの変態さん?」
「だから変態じゃないから」
「えっとじゃあ……蚊の妖 精?」
「虫じゃないし妖精でも……あ、まあ、妖精の親戚くらいかな。うん、変態よりそっちが近い」
うんうんと頷いたあと、彼女は期待を込めた目で見つめて来た。
どういうこと?
あれか、自称妖精さんってやつかな。たまにネットで見かけるやつ。でも妖精じゃないんだよね。
僕が悩むのを見抜いて、彼女はくすくす笑った。
「じゃあヒント。ほら、夜に現れて人の生き血を吸う伝説の魔物って言ったら?」
「……吸血鬼?」
「当たり!」
良くできました、ってケラケラ笑って拍手される。これって誉められてるのかな、それとも馬鹿にされてるのかな。
彼女はどこにでもいるようなフツーの子で、見た感じ僕と同じような世代だ。服だって今流行りのカジュアルなものだし、漫画や映画のなかの吸血鬼みたいに金髪でも、赤い眼でもない。
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