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「……自称、吸血鬼?」
「ノンノン、マジもんの吸血鬼」
「嘘だろ、そんなのいるわけないじゃん」
「ふふん、いるんだなあコレが」
「信じられない」
「じゃあ証拠、見せたげる」
彼女は僕から離れると、臆することもなく。ビルの縁の少しせり上がったところへ上り、そのまま空中へ踏み出した。
落ちる!
「うわあやめてえっ!」
「へーき。ほら」
「……えっ?」
彼女は微笑んだまま空中に浮いていた。
信じられない。
背中には大きな蝙蝠みたいな翼が広がってて、吹き上げる風を上手く受けてホバリングしてる。あれ、はりぼてじゃないよね。ほんとに生きてるみたいに、しなやかに動いてるもの。
急に強くなった風がフレアスカートを膨らませるのを、彼女はさっと両手で押さえた。そして翼をたたんで降り立ち、再び僕に向き直った。
「びっくりした?」
「……した。ホントに本物、なの?」
小さく、でもしっかりした頷きが返ってきた。
これだけで、本物の吸血鬼だって証明になるのかは分からない。そもそも吸血鬼の知り合いなんていないから、判断する基準がない。でも確かに、彼女は人でない何かだと感じた。
「ねえ君、世の中にはね、人間の知らないことや、考えの及ばないようなことがたくさんあるんだよ。君は今、その一つを知ったんだ。しかも、世界中でもほんの一握りしか知らないような、すごい秘密だよ。冥土の土産には最高だよね」
「あ、えっと、う、うん」
ちょっと頭がついてってないけど、あんまり彼女が楽しそうだから、ついつい頷いてしまった。
押しに弱いんだよな、僕。
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