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「というわけで、ではではいただきまーす」 「……えっ?」  彼女の腕が伸びてきて、僕に優しく抱きついて来た。  何だろう、この穏やかな感じ。彼女のほうが小さいのに、僕が彼女に包まれたみたいに感じる。  誰かに抱き締めてもらうのって、とてもとても久しぶりだ。  懐かしい匂いがする。急に、子供のころ、お母さんが抱っこしてくれたときのことを思い出した。  会いたいな。天国で病気が治って、元気になれてるかな。僕が死んだら会えるかな。  忘れていた幸せな記憶が堰を切ったように溢れてくる。自殺しようとしてる僕にも、こんなに優しい時があったんだ。毎日がキツくて、ほんとに忘れてた。  あ、首の付け根が熱い。その熱の正体が彼女の唇だと思い至った矢先、彼女はすっと身を離した。 「ごちそうさま。もう終わったよ、痛くなかったでしょ?」  もう終わった?  ああ、そうか。彼女、僕の血を吸っていたのか。  血を吸って―― 「っああああ! ちょちょちょ、何すんのっ!」  慌てて彼女から離れて、熱の名残を押さえた。少し湿った感じがする。確かに痛くなかったけど、何となく傷口から血が出てる感触がある。  ドキドキしながら押さえていた手を確認すると、ちょっとヨダレっぽい液体がついていた。  うわ、まじヨダレだろこれ。何なのこの人、ってかこの吸血鬼、吸血鬼のくせにヨダレ残すなよ!
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