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彼女は僕を見ながらニヤニヤしていたけど、ふと目を伏せてため息を吐いた。
「そんな可愛い私も、ずいぶん長く生きすぎたかも……あっ、やっぱダメだ」
「え、何?」
突然、彼女は腹を押さえてうずくまり、激しい咳をした。それはしばらく止まらず、遂に……うげっ、て吐いた。
「うわあああ、血、血がっ」
「うっ、げほっ……あーごめん、せっかく吸わせてもらったのに全部吐いちゃった」
「ひっ!」
本当に吸ったんだ!
やっぱり本物?
うずくまった彼女は苦しそうだった。足元に真っ赤な血が点々と落ちてる。
確かに僕、普段からインスタントや惣菜の弁当ばっかだから、もしかしたら今まで吸ってきた血液ワースト3とか入るかもしれない。
「だ、大丈夫? ってか、そんなに僕の血、不味かった?」
「ううん。君若いし、タバコも薬物をやってないからけっこう美味しいよ。まあ、若干薄めではあるけどね。というか、吐いたのは私の体の問題」
「体……?」
「うん、もうね、そろそろみたい」
何が「そろそろ」なんだろう。
唇に残った血を指先で拭いながら、彼女は立ち上がって空を見上げた。月は天空を通りすぎて西へ傾いている。そのぶん輝きが弱まり、少し透明感を増した夜空には星が現れていた。
「ね、君。まだ時間ある?」
「え?」
「君がここから飛び降りるまでの間でいいから、少しだけ一緒にいてくれる?」
月を見ていた瞳が僕に向けられる。それがとても真っ直ぐで、彼女のお願いを聞いてあげたくなった。
「……うん、いいよ」
「ありがとう」
彼女はにっこり笑ったあと、僕の隣へ来て静かに腰を下ろした。
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