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非凡な人生
「田中、これ頼む」
今日も頼まれる。
手渡される手紙。ラブレターってやつ。
―――全て僕の姉貴、田中 華子(たなか はなこ)に宛てたものだ。
僕の名前は田中 一郎(たなか いちろう)平凡な名前だと笑ってくれるな。
中身もごくごく地味で平凡な高校生一年生なのだから。
それに対して僕の姉貴、華子はその名前こそ平凡だが頭脳明晰で絶世の美女。3つ年上の20歳、大学生。
別に僻んでなんかないさ。
幸いにも両親は僕も姉貴も分け隔てなく可愛がってくれているし、当然姉貴も唯一の弟である僕を大切にしてくれる。
……しかし、そんな僕でもうんざりしている事はある。
姉貴に恋焦がれた同級生や下級生、上級生達がこぞって姉貴にラブレターを渡そうとしてくることだ。
彼女にとってはもう愛の手紙なんてものは日常茶飯事の、トイレットペーパー以下の認識でしかないものだから、ついに直接受け取ることはしなくなった。
なんと弟である僕経由で渡してくれ、と触れ込んだのだ。
「おい、田中。これも頼むよォ」
「あー。はいはい」
それでいてほぼ毎日こんな感じ。
1日に最低30通。多いときで70通。僕は姉貴の代わりにラブレターを受け取る。
(どうせ見やしないのに……)
そう思うと彼らが気の毒に思えてくる。
しかし姉貴だって別に高飛車な性格とかでは無いのだ。彼女にも彼女なりの気持ちも持論もある。
『顔も知らない人達からの好意が文字という媒体で運ばれてくるのって、もはや呪いよね』
なんて大真面目に言うものだから、恐らく姉貴は現在厨二病闘病者だ。
「ねぇ。田中君……あたしもいいかな?」
「え。あー、はいはい。こちらに」
今度は上級生の女子。
姉貴の魅力は男女問わず、その琴線にビシビシ引っかかるらしい。
むしろ最近は女の子からの手紙も増えている。
あ、ちなみに食べ物やプレゼントはお断り。リスク管理大変だから。
ここまで来ると、なんだかアイドルのマネージャーの気分だ。
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