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薫に繋がる手がかりを得たのは、本当に偶然だった。
バイト先で雑誌の整理をしている時、想い人に瓜二つの俳優が表紙を飾っていた。髪型は異なっていたが、伸びたら多分、ほぼ同じになる。
思わず中身をめくっていた。
――皐月、薫。
インタビュー記事の終わりに、名前があった。
唯一知る「薫」だけが、一致していた。
顔がたまたま似ているだけ。下の名前が一致しているだけ。本名かもわからない。それでも無視できないほどに、第六感が訴えていた。
帰宅して、「皐月薫」を改めて検索してみたら信じられない量の情報が手に入った。
歳は二十八であること。大学生の頃から俳優を続けていて、二年前に出演した『まぶしい月に誘われた僕は』の役が当たりとなり、今や主役も脇もこなせる名優になったこと。
スマホを持つ手が震えた。残ったピースが急に嵌まり出したようだった。
――いっそ、このまま自然消滅した方が、お互いのためにいいのかもしれない。ましてや、恋心なんて無駄だ。再会できたとして、今までみたいに誰にも見つからないとは限らない。見つかったら迷惑しかかけない。
そう思い込もうとしたのに、できなかった。我慢すればするほど募って、会いたくて、たまらなかった。
自分にとって、皐月薫は「お兄さん」以外考えられなかったのだ。
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