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食べる
森の広場にカラスがやってきたので、勉強会のはじまりです。
カラスは両羽をバサッと格好よく広げて言いました。
「今日、勉強する内容は、食べるということについてだ!」
「食べる…のなにを勉強するというのだい」
すっかり恋愛体質になってしまったウサギがそう言うので、フクロウは慌てて言いました。
「では皆さん、理想の食とはなんでしょうか」
小リスの兄弟が真っ先に言いました。
「そりゃあたくさん食べることさ!」
「ぼくらは身なりが小さいからあまりたくさんたべられないから」
「もっともっと大きくなれば、もっともっとたくさん食べられる!」
「そうなったらどんなに素敵だろうか」
カラスはアホー!と鳴きました。
「阿呆の小リスめ!デカいと、たくさん食べないと死んでしまうんだ。食事は楽しみではなく義務となる。それで絶滅したほ乳類だっているんだぜ!」
「絶滅!?」
「うそだ!」
小リスの兄弟は驚きました。だって、大きくなれるだけの食料があったからこそ大きくなったのに、絶滅したなんて信じられません。
勉強家のフクロウがホーと鳴きました。
「ほう!森の木が枯れて草原が増えたころ、高いところの木の葉っぱを食べていたパラケラテリウムが、気候の変化で背の高い植物がなくなったために絶滅した話ですな。」
クマが口を開きました。
「俺は面倒は嫌いだ。土ごと喰えればいいのにと思ったことがあるよ」
「ジャイアントモアの話を知っているかい」
カラスがそう言うので、勉強家のフクロウがまた、ホーと鳴きました。
「ほう!石ごと食べて植物をすりつぶす鳥ですね。」
「そりゃあいい」
クマは川の石ごと、小さな魚を食べるのを想像しました。これなら石をどかして逃げられることもなさそうです。すっかり良い気分になったところで、カラスが水を差しました。
「絶滅したがな」
「なんで」
「人間が焼けた石を喰わせたのさ」
クマはゾッとしました。
「ふん、俺が人間を避けるのは理にかなっているということだな」
小リスの兄弟がいいました。
「僕らのようにどんぐりだけ食べていたら安心だね」
「魚竜をしっているか。一つのものだけ食べてたらそいつがその辺からいなくなったのと同時に絶滅したんだぞ」
「なにを」
「イカのナカマさ」
「まってイカはいまでもいるぞ?」
「イカが絶滅するまえに、魚竜が絶滅したんだろ」
カラスがそう言うので、小リスの兄弟は、森からドングリがすっかりなくなってしまったらどうしようかと考えました。もしかしたら、森自体がなくなってしまうことだってあるかもしれません。
ウサギが照れくさそうに言いました。
「じゃあ人間に飼われるのは?」
フクロウがホーと鳴きました。
「ほう、飼われて、愛されて、喰われて死ぬ。自然の摂理かもしれませんね」
ライオンが言いました。
「喰われるのが自然の摂理か…まるで謝肉祭だな」
カラスがすん、と鼻をたてました
「森で誰かが死んだな…」
カラスはバササっと羽音を立てて飛んで行きました。
その後を追う、フクロウ、小リスの兄弟、ウサギ、ライオン、それからクマ。
「イノシシだ」
「弔おう」
「弔いを始めよう」
それで、みんな一口ずつイノシシを食べました、それから、コウモリ、キツネ、孔雀もやってきて、イノシシの肉をみんなで食べました。
最後にフクロウが口上を述べました。
「勇敢なるイノシシよ。その地肉を我らが食したゆえに、我らに勇気が与えられた。感謝する」
こういうとき、ライオンは森の西の方に夕日を見に行きました。西の方には友だちのコウモリが住んでいて、実のところは、コウモリに会えるのではないかと期待していたのです。
バサバサっという羽音がしました。木の上を見上げるとカラスがこちらを見ていました。ライオンは少し投げやりな気持ちで、カラスに尋ねました。
「やあカラス。食べることは罪だと思うかい」
「おれは贖罪だと思うね。俺たちは皆少なからず、イノシシに迷惑をかけた。その償いの気持ちでイノシシを食べるのだ。旨かろうが、不味かろうがな」
「おれが死んでも、償いの気持ちで食べるのか」
カラスは照れくさそうに答えた。
「みんな、それぞれ関わった人には多少の迷惑はかけている。だから、オレはお前が死んでも、贖罪をしたい。だが…」
「だが?」
「カラスの肉はまずいと聞くからな。皆が無理して食べねばと思わぬように、オレは誰かを助けないようにしているのかもしれない。」
それでカラスはバサバサっと羽音を立てて飛んで行きました。
その日は星が出るまで待ったけれど、コウモリはやってきませんでした。
きっと生まれたばかりの4匹の子どもの世話が忙しいのだろう。そう思って、ライオンは眠ることにしました。イノシシを食したことでイノシシの勇敢さが自分に宿ったと信じて。もう夜は遅いから、明日こそは、コウモリに会いに行こうと思ったのでした。
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