ばあちゃんの名を呼ぶ

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夕方疲れて眠っていると ばあちゃんの家を思い出す あの独特のにおいと もうないソファを思い出す 「さなちゃん、おかき食べるかい?」 もう さなちゃん と 呼んでくれるばあちゃんはいない きちんと病院のベットに横たわり 私のことはもう 空へ飛び立たせてしまったのだろう 日に日に弱っていくばあちゃんのことを 昨日までは受け止められずにいた ばあちゃん、 早苗です。 あなたの孫よ。 この前は結婚式、来てくれてありがとう。 ああ、そんなこともあったかねえ あたしゃ疲れたよ 一言でもいい そう呟いてくれたら。 若い女の子が来た それだけでもわかってくれたら。 黄昏時は 一番死に近い時間だと 思うのだ おうちに帰ろうの音楽が 怖くなくなって 怖くなって それでもやっぱり家は好きだった 新しい家族とも 私のほほに触れる夫の手があたたかい ぽっ、って消えるわけじゃないのね。 そりゃあ、そうだよ。 だんだん フェードアウトしていくように ばあちゃんの名を思い出せなくなる日が 私にも来るのだろうか ひとはみな 子どもに戻って死ぬ ばあちゃん、だから楽しんで この世を、あともう少しでいいから、もっと。 ばあちゃん、だから甘えさせて また私の名前を いつかどこかで、呼んで。 このリビングはひとつの船 夫と乗り込んだ船 船出にはちょうどよかったよ ばあちゃん。 ばあちゃんの病室にも このリビングと同じ 朝が来る
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