入院病棟で聴くラジオ

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入院病棟で聴くラジオ

病院のベッドで聴くラジオは、こんなにもくっきりしているのか。 産まれながらの健康体でいままで入院したことのない男にとって、新鮮な驚きだった。 六人部屋のなかには、テレビを観ている入院患者もいる。 男は病院ではラジオを愛用していた。テレビは観た時間だけ料金がかかるカード式だ。売店でテレビカードを買うのはおっくうだし、自宅なら好きな時間だけ観られるのに10分刻みで金額を数えられていくのが割に合わないと男は感じていた。 『次の投稿は、北海道札幌市のラジオネーム、モーニングさん。夜の番組でモーニングと名乗るのは、洒落っ気のある方ですね』 男の投稿だった。 イヤホンをつけていたラジオのボリュームを上げる。ベッドで寝返りをうち、仰向けになった。 あの女性もラジオを聴いているだろうか。いまは会えないから、男は賭けた。 いや、ただ誰かに伝えたかったのかもしれない。たった一夜の出会いでも、人は影響され道を決めて歩いていくのだと。 ラジオを聴きながら、男は思い出した。病をきっかけにめぐり会えた、藍染の着物を着た額の広い女を。 病室から見える景色は、あの日と同じく満月だった。
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