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「ぎぃやあああああ!」
それを見た瞬間、あらん限りの叫びをあげた。
「どうした、真朱!」
「入ってこないでよ、お父さん!」
開けられたドアを閉め返す。なにせこっちは裸にバスタオル一枚なのだ。私はもう一度、確認するためにそれに乗った。乾かしていない髪からぽたぽたと水滴が落ちる。デジタルの数字は無情にもみるみるうちに五十の大台を突破した。
増えている……。しかも五キロ以上も。
体重計に乗ったのは学校での春の身体測定依頼だろうか。前は四十五キロだったことはしっかり覚えていた。いくら成長期だとは言え、半年でこの増え方は異常だ。中二の平均体重からはずいぶん上に違いない。
そんな。暴飲暴食なんてしていないのに……。
家の体重計は随分前に壊れて、新しいものを買わずにいた。それを唐突にこの日、お姉ちゃんが購入して来たのだ。
もしかして、お姉ちゃん。私が太ったって言いたくて買って来たんじゃ。
両の手でほっぺたをぐにっと持ち上げた。前よりもずっと肉厚な気がする。
お姉ちゃんは体重なんて気にしなくていいぐらい。スリムだし、美人だしな……。体重計を買ってくる理由なんて一つしかない。
バスタオルでガシガシと髪の毛を乱暴に拭いて、ドライヤーで乾かす。ロングTシャツとジャージに着替えて、脱衣所を出た。和室の居間に行くと、お姉ちゃんがスマホを片手にくつろいでいる。
「お姉ちゃーん。私、そんなに見た目も太っている?」
「見た目って言うことは、やっぱり太っていたのね」
静かな声で言うけれど、なんだか棘があるように思えた。私は唇を尖らせて言う。
「わざわざ体重計買ってこなくても、言ってくれれば気を付けるのに」
「別にあなただけのためじゃないわよ。私だってもちろん測るし、お父さんだって最近晩酌のし過ぎでお腹出てきているし」
黙ってテレビを見ながらビールをコップに注いでいたお父さんの背中がびくっと震えた。
「でも私、なんでいつの間にこんなに太ったんだろう。ご飯だってお姉ちゃんたちと一緒でそんなに食べてないし、おやつだって食べてないんだよ」
「運動不足じゃないの?」
「毎日三十分自転車こいで通学しているのに?」
「……それは、おかしいわね」
「でしょー。でもなんにしても、今日からダイエットしないとね」
私はそう言って、私は居間を立つ。隣の台所に行って、台所へ。冷蔵庫の一番下の引き出しを開けて、どれにしようか迷う。
「なにしているの、真朱」
「あ。お姉ちゃんも食べる?」
冷蔵庫には冷凍したお肉の他に、三種類のアイスが入っていた。ソーダのアイスキャンディに、バニラのカップアイス、それとチョコレイトがかかっているコーンのアイスだ。
「いやいや」
「ああ。やっぱりお風呂上りがいいよね。私、今日はバニラにしよっと」
バニラカップを一つとって、冷蔵庫を閉める。食器棚の引き出しを開けてスプーンを取り出そうとしたら、その手を止められた。
「真朱、つい今さっき、言ったわよね。今日からダイエットするって」
「うん。するよ。やっぱり運動かな?」
あ。でも、もうお風呂入っちゃったから明日からだ。
「運動もいいけど、まずアイスを辞めたら? というか、どう見てもそのアイスが原因よね」
「お姉ちゃん、知らないの?」
「え?」
お姉ちゃんは頭がいいと思っていたけれど、こんなことも知らないなんて。私は少し得意になって話す。
「よくダイエットとかで話題になるカロリーって熱量の事を言うんだよ。それでアイスって冷たいから身体のエネルギーにならなくてカロリーがないんだ。だから、アイスは一日何個でも食べていいんだよ」
さすがのお姉ちゃんも黙って私の手を離した。
「というわけでいただきまーす」
私はスプーンを取り出して、カップの中のバニラアイスをすくう。大きな口を開けて口に含む。口の中にバニラの上品な甘さが広がって、香りが鼻に抜けた。
はー、幸せ。
居間に座ってテレビを見ながら食べようとすると、その前にお姉ちゃんが立つ。
「真朱、一日アイスをいくつ食べているの?」
「えー? 三個ぐらい?」
「その情報って、どこで聞いたの?」
「ネットでそういう書き込みがしてあったんだよ。私も知らなくて、今年の夏からいっぱい食べるようになったんだ。なんて言ったって、カロリーゼロだもんね!」
私もカロリーがゾロじゃなければ、こんなに食べようとは思わない。
「見なさい、真朱。ここ」
お姉ちゃんの手にはコーンのアイスが握られていた。指さすそこには、239キロカロリーとある。私は目を見開いた。
「あ、あれ??」
「分かった? ネットの情報を鵜吞みにしちゃだめ。アイスは全部カロリーゼロじゃないのよ。あなたが食べているバニラアイスだって、高カロリーのはずよ」
私はカップの回して表示をよく見てみる。そこには310キロカロリーとあった。
「えええええええ!!」
こうして私はアイスを断ち、ダイエットのため、朝夕のジョギングをすることにした。だけど、誘惑はあちらこちらに。コンビニだ。
「ご褒美に一つぐらいいいよね」
後にお姉ちゃんにまたバレて、財布を持ってジョギングに行くことを禁じられる私だった。
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