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翌日は、昼近くまで寝て、コウさんの所に出掛けた。
コウさんには黙っていたが、夕べの職質でヘルプを出したい気分になっていたのだが、俺の顔を見るなり、
「親切なおまわりさんから連絡があったよ」
と、笑った。
先手を取られて、俺は、初めて出掛けた新月の夜のこと。上弦の月の昨夜のこと。
冠木門と香りのこと。
自分でも、まるで子供が言い訳をしているみたいだと思いながら、ぐずぐずと話した。
コウさんは、辛抱強い母親のように黙って聞いていた。
「ね、それ、月の写真と関係ある?」
「関係は…ないかもですけど…」
「花?それは花なの?どんな香り?」
「どんな…って…嗅いだことのない香り。香水とか人工的なものじゃなくて、もっと、樹とか土の匂いを孕んだ、やっぱり花の香り…コウさん、今夜行きませんか?」
「えぇ、シュウの仕事じゃん。やだよ。怖いし」
「なんで怖いんですか」
「出るだろ」
「何?」
「あー、シュウはその怖いもの知らずの、能天気な処がいいね」
「能天気って、馬鹿にしてますね。真面目に言ってるのに」
「真面目に言ってないとは言ってない。じゃ、行くか。遠足。昼、済ませて、夜食を持って、先ずは城址内を探検してから、暗くなるのを待つ。来週は雨っぽいから無理だろうし」
「雨?」
「台風、三つ来そうだろ」
「えーそんなぁ」
「自然相手に喧嘩出来ないの」
この人の言うことはいちいち正しい。
そこが一寸癪に障る。
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