小夜曲

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コウさんの白い寝顔を眺めながら、俺が不思議だと思って通ったこの1週間を、まるで城址ガイドのように、いとも容易く案内し、幻のひと言で片付け、心地良さそうに昼寝しているこの人こそ、底知れない人だとあらためて思う。 頭の中とか、心の中とかを一寸覗いてみたい。 スマホのアラームが鳴った。 「あー、30分?さて、車に戻るか、正面入口へ向かうか、どうする?」 「コウさんに任せます」 「なんだそれ。じゃ、とりあえず、戻ろう。車、置きっぱだし」 「そうですね」 「なんだ。急にテンション下がってない?」 「明日の17時以降、降水確率60%です。ずっと雨だ。なんか萎える」 「雨雲より上で撮ればいいじゃん。月はいつも輝いているんだからさ」 そう言うと、立ち上がり尻をはたいて柵の下を覗いてから、元来た方へ歩き出した。 雨雲より上って何処だよ。 再び、40分、歩き続け、車に戻ると、急に、帰るよ。と言って発車した。 「え、月の出まで居るんじゃなかったんですか?夕食も買い込んだのに」 「歩き疲れた。それに、多分今夜は曇って見えないし、明日も無理だし」 「もぉ、コウさん、なんか酷い」 「12日か、まぁ、13日だな。満月の夜にまた来よう。もし雨が降っても」 「ホント、約束ですよ」 「指切りする?」 「しないけど」 肩透かしを食ったような気分だったが、素直に従うことにした。 戻って、夕食は詰め込んだファストフードに缶ビールを開けた。 その夜は雲が低く垂れ込めて、上弦から少し膨らみかけただろう月も、星々も見えなくなっていた。
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