小夜曲

5/14
前へ
/14ページ
次へ
あの香りのせいなのか、行って帰って来ただけのつもりが、思いがけず長居をしたのか、或いは迷っていたのか、妙に気持ちが高ぶって、なかなか寝付かれずに朝を迎えた。 朝食を済ませると直ぐに出掛けた。 昨夜より、少し風がある。 やはり20分余りで到着した。 駐車場にバイクを止めて、昨夜の記憶を辿りながら歩き始めたが、直ぐに立ち止まった。 プリントアウトしたパンフを見ても、3時間、見学通路をぐるぐると歩き廻ったことになる。 訝しく思いつつも、左右を確かめながら辿り着いた復元の門は、昨夜のものではなかった。 瓦が葺かれた薬医門という形式。 俺がくぐったのは冠木門だ。 見上げるほどに高く、どっしりとした冠木が渡されていた。 そもそも、門の傍らにバイクを止めたのだから、正面入口ではない所から入り込んだのだ。 それにしても広大。 城というと、天守閣を頂いた壮麗な城をイメージするが、富士山を望む高台。断崖の下を流れる川。自然の地形を活かした堅固な守りの山城を想像するのもロマンだろう。 ああ、城の魅力を語っていたっけ。 余り覚えてはいない。 何かに夢中になって、目を輝かせ、時の経つのも忘れて…という人に久しく会ったことがない気がして、興味が湧いたのかもしれない。 恋でも愛でも、なんでもなく…。 ぼんやりと彼女のことを思い出し、月が上る夜の絶景スポットを探しながら、見学コースを一周した。 樹々が繁り、或いは草はらが広がり、山野草は所々で可憐な花をつけていたが、匂い立つ香りの花を見ることはなかった。 無論、真昼の月を空に見ることもない。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加