小夜曲

6/14
前へ
/14ページ
次へ
十五夜まで毎日通ってみようか。 同じ場所で月が満ちていくのを撮る。 今夜はきっと、極々細い糸のような月が見えるか。 そして、花は夜に香るのかもしれない。 3時間。 昨夜と同じだけ、ゆっくりと、丹念に城跡を歩いた。 諏訪神社に手をあ合わせてから、山を下りた。 昨夜の記憶…。 今日と重なる処が一つもない気がした。 コンビニで昼食を買って、コウさんの所に寄る。 ボソボソとバンを食べていた。 「何食ってんすか。それ」 「やぁ、ん、フォカッチャとタピオカミルクティ」 「女子ですか。米粒食いなさい。はい、おにぎり。シャケとツナマヨ」 「シュウってさ、時々母親みたいなこと言うよね。で?夕べはどうだったの?」 「ん…暗くてなんも見えなかったんて、今、また行って来ました。満月まで毎日行こうかと思ってるんだけど」 「それ、間に合う?13日だよ。1週間前でしょ」 「あー、そっか…なんか拾っておきます。コウさん、やっぱり怒ってます?」 「別に。怒ってたらOKしないし。明日、防災、一応見て来てよね」 「はい…。これ、やっぱ、月見だったかなぁ…」 「しつこい。10月号は月と山城だから」 「はい」 コウさんのデスクの端の積み重なった本が雪崩れ落ちた。 拾い上げると、かぐや伝説の本。 月とかぐや姫…。 「コウさん、かぐや姫?」 「ああ、シュウのと直ぐに差し替えられるようにね」 「酷っ」 「この前、富士のかぐやセンターに行ってみたら、結構面白かったからさ」 「えぇ、いつ行ったんですか?誘ってくれなかったじゃないですか」 「ま、差し替えられないように、ちゃんとやってよ」 「頑張ります」 昨夜の話はしなかった。 今夜、もう一度行ってからにしようと思った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加