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通路の出口のその先で
経験「した」話はね。
さあ、今の話をしよっか。
その後私はそこそこ幸せな人生を送った。
左腕をなくしてちょっとだけ不自由だったけど、いい旦那様にも巡り逢えて、可愛い娘も産まれて。うん。幸せな人生だったわ。
そんな私の人生にも終わりがやって来た。
今、私は、あの時の地下通路の反対側の入り口から暗い通路を覗き込んでいた。
辺りは一面真っ赤な彼岸花。
命を溢して散ったような花びらは、それはもう美しい。
私は死んだ。
人生を終えて、今、この花畑の中に立っている。
花畑の向こうには、あの小さな女の子が笑って走り回っている。
地下通路の始めと終わりは、どちらも入口であって出口である。
あの日、出口だと思っていたこちら側から、今日私はもう一度通路を通る。体はもう火葬されて無いので、食べられる心配はない。
みんなと約束した同窓会が、今日開かれる。
とっておきの話をそれぞれ持ち寄って、楽しい同窓会が開かれる。
小さな親友に
「ちょっと、みんなに会いに行ってくるね」
と声をかけて、地下通路に吸い込まれていく。
「おみやげ、よろしくね!」
高い声が後ろから聞こえた。
残念。みんなきっと×××いるから食べ物も飲み物も期待できないかな。
あの暗い通路を進む。
進む。
進む。
進む。
地下通路は、あの時のように長い。
地下通路が冷たいのは、体の無い私たちが通るから。生きていた時の体の熱は今の私たちにはない。
だから、生きている人にとって冷たく感じるの。
途中、食い残しがポツポツと捨てられていた。骨とか。カバンとか。服とか。携帯電話とか。
ふと、懐かしいものが目を掠めた。
高校の学生証だった。
あ、と思った瞬間
「みぃつけた」
すぐ後ろに気配を感じた。
迷惑なストーカー先輩だった。
通路に体を食われた先輩は、出口からも入り口からも外へ出ることができずにこの地下通路をさ迷い続けていたのだ。
ただ、
(ざくん)
「ひ」
どこからか、あの音が聞こえた。
先輩は途端に怯えて震えだし、周囲を警戒しながら逃げていった。
先輩はあの時の死の恐怖からも逃げられずに、未だに迷っているのだ。
ちょっとだけ。ほーーーんのちょっとだけ、可哀想かな?と思ったり思わなかったりした。
そして、私は音の正体に気がついた。
地下通路が獲物を食べる音。
それは歯を噛み合わせる音。
地下通路の奥へ行けば行くほど、鋭い歯が壁にびっしりと生えていた。
奥というのは通路の一番深いところ。中間地点だ。
つまり、先輩と私の左腕が食われた場所。
死んでいる今の私だから見える「真実」だった。
この「地下通路」は生きている。
腹を、空かせている。
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