未来に

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未来に

「そうだ、Fくんのことだけどね」 「ちょっと待った。芽衣子。俺、やっぱ聞くのやめとく」 「え? なんで?」 「だってよく考えたら、そんな、 昔好きだった奴の話なんて、俺べつに聞きたくないし。 べつに芽衣子が、今は俺を好きだって知ってっけど」 うつむいてモンブランをつっつきながら、早口になってしゃべるので、笑ってしまった。 髪のすきまからのぞく、うすい耳たぶも赤くなっている。 その耳たぶにくっついた、輪っかのピアスを指でつついて 「ちとせー。可愛い奴よのう」 と言うと、「うるせー」とにらまれてキスされた。 もしも、未来にタイムマシンが開発されて、今の私たちを見たら、きっと照れくさくって笑うだろう。 だけどこの、ときめきや、若さ、青臭さ、くすぐったさ、ひとからみたら馬鹿みたいに思えることでも、ぜんぶ今の大事にしたい気持ちなんだ。 小さな封筒につめこんでも、たぶん全然入りきらない。 十年後なんて想像しても、あんまりピンとこないけど、できるならそのときも千歳がそばにいて、一緒にモンブランでも食べられればいいなあと思う。
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