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乳狩りの爆美巨貧と生け贄のイーナ
グリフィンに対する捧げものとして、イーナは石柱にくくりつけられていた。
月明かりが時おり雲の切れ間から現れ、冷たい森に針葉樹の影を浮かび上がらせる。
極夜の冷気は保温の結界によって防がれていたが、イーナにとっては凍えて死ぬ方がはるかに楽だった。
グリフィンの食事は長い。
獲物をいたぶり、苦痛にゆがむ顔や悲鳴を楽しみながら食していく。
天敵がいないがゆえの、優雅な晩餐だ。
生け贄の風習はすでに廃れて久しいが、殺人鬼の娘のハーフエルフを始末するため、今年だけは執り行われることになった。
イーナを擁護する人は一人もおらず、弁明の場も与えられず、彼女は深い森に置き去りにされた。
そして自分を引き裂く者の咆哮が空に響き渡るのを、イーナは戦慄とともに聞いた。
死を受け入れていたはずの呼吸が荒くなり、硬く縛られた四肢が必死に逃げ出そうとする。
手足が痙攣するほどもがいても、縄から抜け出すことはできない。
助けを求めても、聞く人はいない。
グリフィンの影がイーナを覆い、獣臭い巨体が地響きを立てて目の前に降りた。
イーナの身長の三倍はありそうな、大きな体躯だった。
頭を砕けば一瞬で終わるのに、これから凄惨な宴が始まる。
鋭い眼光にすくみ上がり、息が吸えなくなったその時だった。
「その乳はわれが買った」
グリフィンの背後から男の声がした。
「今宵愛でるべき乳を、ちょうど探していたところだ」
今まで聞いたことのない、低く野太い声だった。
毛を逆立たせ、グリフィンが声の先に眼をやる。
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