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「ベッドに腰かけろ」
爆美巨貧はフィーラが倒した椅子を起こすと、足を組んで座った。
窓から差し込む月明かりが彼の顔の左半分だけを照らし出す。
「腰をかけろと言っている」
そう言われて、イーナは自分がベッドの端で壁にすがりついていることに気づいた。
逃げ場はどこにもない。
今日はここでよいという彼の言葉を、少なくとも今日は殺さないという意味だと解し、指示に従うしかなかった。
浅い息のままベッドに腰かけ、視線を床に落とす。
「窓の向こうを見ろ」
イーナは言われた通り上体をひねり、窓の外に眼を移した。
いったい何をしようというのだろうか。
不可解な指示が背筋を冷やし、跳ね続ける心臓を脅かす。
「そのままじっとしていろ」
爆美巨貧はイーナを見つめたまま椅子にもたれるだけだった。
ひょっとすると今夜は獲物の吟味をしたいだけかもしれないと、ぼやけはじめたイーナの視界にかすかな希望がちらついた。
もてあそばれるならばいっそ気を失ってしまった方がいいという心理も、彼女の意識にもやをかけた。
そのまま二十分は経っただろうか。
緊張と混乱が入り混じる中、尾根に沈んでいく月を凝視するイーナの神経は、すでに限界を迎えていた。
月が完全に隠れると同時に、イーナはベッドに倒れ込んだ。
「美味であった。今日は眠れ」
途切れ途切れの意識の向こうで、椅子を立つ音がした。
何もされていないはずなのに、美味とはどういうことなのだろう。
扉の閉まる音とともに、イーナの頭脳は考えることをやめた。
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