乳狩りの爆美巨貧と生け贄のイーナ

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「爆美巨貧さんは女の人を、その、何のためというか、どうしてこの屋敷に住まわせているんですか?」  イーナはフィーラの話をさえぎり、できるだけ遠回しに自分の立場を尋ねた。  その意を見通したように、フィーラの顔にいたずらっぽい笑みが浮かぶ。 「やらしいことはされないから大丈夫。爆美さまは見るだけで満足みたいだから」  イーナは首をかしげた。  見るといっても、昨晩は儀式の装束のまま爆美巨貧の前に座っていただけだ。  眠っている間に何かされたという可能性もあるが、記憶にまったく残らないということはないだろう。 「人狼と月の伝承ってたくさんあるでしょ?」  怪訝な顔のイーナに向かって、フィーラは言葉を継いだ。 「爆美さまの場合、月明かりに照らされたものの形とか、動きとか、そういうものが手に取るように分かるんだって」  森の奥深くで生け贄にされそうになっていたイーナを見つけたのは、どうやらその性質によるものらしい。 「爆美さまはその力で女の子の身体を服の上から見透かして、記憶に焼き付けるの。それでおしまい」  ということは、昨晩は数十分の間、裸を見られていたということになる。  まったく嫌悪感がないかといえば嘘になるが、実際に脱がされたわけではないし、命を助けられたのだから、それくらいのことは許容するしかないだろう。  それに、フィーラの付け加えた最後のひと言が気になった。 「どうして記憶しておしまいなんですか?」  イーナが聞くと、フィーラはにんまりと笑った。 「それが爆美さまの一番かわいいところなんだけど」  頭をこちらに近づけ、小声で言う。 「女性に免疫がなさすぎてね、指先で触れるのが限界なの」  昨晩の記憶が蘇った。  爆美巨貧がイーナに触れたのは、石柱に縛り付けられている彼女を気絶させた時だけだった。 「じゃあ、私をここまで運んできてくれたのは」 「あたしよ。爆美さまの食料調達をやってるとね、自然と体力がつくの。白夜の時期の爆美さまなら押し倒せる自信があるんだけど、殺気を感じるとすぐ逃げちゃうから、まだ未遂なんだ」  楽しそうに爆美巨貧のことを語るフィーラの笑顔を見て、イーナは安堵した。  妙な趣向はあるものの、どうやらふたりとも悪人ではないらしい。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加