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「爆美巨貧さんは女の人を、その、何のためというか、どうしてこの屋敷に住まわせているんですか?」
イーナはフィーラの話をさえぎり、できるだけ遠回しに自分の立場を尋ねた。
その意を見通したように、フィーラの顔にいたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「やらしいことはされないから大丈夫。爆美さまは見るだけで満足みたいだから」
イーナは首をかしげた。
見るといっても、昨晩は儀式の装束のまま爆美巨貧の前に座っていただけだ。
眠っている間に何かされたという可能性もあるが、記憶にまったく残らないということはないだろう。
「人狼と月の伝承ってたくさんあるでしょ?」
怪訝な顔のイーナに向かって、フィーラは言葉を継いだ。
「爆美さまの場合、月明かりに照らされたものの形とか、動きとか、そういうものが手に取るように分かるんだって」
森の奥深くで生け贄にされそうになっていたイーナを見つけたのは、どうやらその性質によるものらしい。
「爆美さまはその力で女の子の身体を服の上から見透かして、記憶に焼き付けるの。それでおしまい」
ということは、昨晩は数十分の間、裸を見られていたということになる。
まったく嫌悪感がないかといえば嘘になるが、実際に脱がされたわけではないし、命を助けられたのだから、それくらいのことは許容するしかないだろう。
それに、フィーラの付け加えた最後のひと言が気になった。
「どうして記憶しておしまいなんですか?」
イーナが聞くと、フィーラはにんまりと笑った。
「それが爆美さまの一番かわいいところなんだけど」
頭をこちらに近づけ、小声で言う。
「女性に免疫がなさすぎてね、指先で触れるのが限界なの」
昨晩の記憶が蘇った。
爆美巨貧がイーナに触れたのは、石柱に縛り付けられている彼女を気絶させた時だけだった。
「じゃあ、私をここまで運んできてくれたのは」
「あたしよ。爆美さまの食料調達をやってるとね、自然と体力がつくの。白夜の時期の爆美さまなら押し倒せる自信があるんだけど、殺気を感じるとすぐ逃げちゃうから、まだ未遂なんだ」
楽しそうに爆美巨貧のことを語るフィーラの笑顔を見て、イーナは安堵した。
妙な趣向はあるものの、どうやらふたりとも悪人ではないらしい。
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