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一通目
言葉だけでは誤解を生みやすい
意図した通りになんて全然伝わらない
だけどだから努力してきた
どうにかどうやってか
言葉だけでもちゃんと自分が伝わるように
少し長くなるけど
少しは伝わってきた気がしたんだ
自分が言葉を投げかけて
相手は予定通りのリアクションで
これは上手く伝わっているからだと
だけど本当にそうなのか
これは予定調和で
僕はただ
相手のリアクションを引き出すための
つくりものの台詞を羅列しているだけなんじゃないのか
僕は自分の心を
本当に言葉に換えていたのか
何度も読み返して
校正して成形して
ちゃんとした文法で
ちゃんとした文章で
誰が見てもわかるような
誰の心にも響くような
美しい文章で
だけどそれはつくりものの台詞の羅列なんじゃないのか
相手が読んで理解して納得して
自分の思い通りのリアクションを取って
自分の思い通りの意識に陥るように
こんなことで本当に
僕は自分の本当の心を記述していたのだろうか
もしも感情をそのまま素直に言葉にするのなら
ちゃんとした文章になんてならないんじゃなかったか
僕はただ論理的に論理性を追求して
誰が読んでもわかるような
誰が読んでも同じ意味に取れるような
美しい文章の制作に腐心していたのではないだろうか
思うとそれはとても恐ろしいことで
それで得たすべては
僕が無意識に作り上げてきた偽物の世界で
僕のつくりものの形だけの言葉に感動した人々は
結局僕にとってはつくりものの偽物の支持者で
なのに現実に今
それが僕の世界を満たしているなら
僕はこれはもはや夢を見ているだけの
つくりものの文字列が生み出したつくりものの世界
僕は本当に自分の心をちゃんと伝えているのか
言葉だけで上手く伝えることで
すべて伝わったなんて誤解してないか
つくりものの自分に
自分が飲み込まれてはいないか
積み上げているものは
本当に自分が望むものか
その向こうにいるその人を
本当に見つめているか
この言語羅列は
よけいなものを欺けるけど
大事な人まで欺いてやしないか
文章力なんて能力ぶったおごった偽りで
誤魔化してまた欺いてやしないか
考え出すとキリが無いし
日々忙しく過ぎてくからいちいち考えてもいられないけど
だけど
だから
君への手紙は出せなかったんだ
怖かったんだ
君と対峙するのが僕の心ではなく僕の言葉になるのが
僕の言葉が 心とは関係の無い別の存体になって君に届くのが
だから君への手紙は出せなかったんだ
出せなかったんだ
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