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河川敷に建てられた街灯の下には、小さなベンチがある。
我々はそこへ腰かけ、買ってきた発泡酒の勘を軽く合わせて乾杯した。
「しかし綺麗な月だな」
間宮が言う。
見上げると、白い満月が煌々と夜空に輝いていた。
不意にその夜が微かに波打ったように感じた。
「ん?」
「どうかしたかい?」
「いや、夜空が……」
言いかけてやめた。間宮が僕を見てにやにやしている。
分かってはいるのだ。彼は口から自分の空想を垂れ流しているだけ。
思いつくまま適当に話を作っているだけだ。
「あまり適当な事ばかり言うなよ」
以前そう言った事がある。
「さてね、僕の言葉は現実と空想の間でいつだって揺れているよ」
そう言って彼は楽しげに笑っていた。
だけど、月光魚なんているわけない。
月の光の中なんて泳げない。大体、何を食べるっていうんだ。
僕は、揺れたような、という言葉を飲み込むべく、目を閉じて発泡酒を喉に流し込んだ。
そして、言葉が完全に消えたのを確認してから再び目を開ける。
街灯の照らしてくれる範囲で河川敷があり、その向こうには夜が広がっていた。水音だけが聞こえる川の向こうに、街の明かりがぽつぽつと見える。その夜が、また唐突に揺れた。
「うわ……」
僕が呟くのと、暗闇から黒い塊が街灯の光の中に飛び込んで来たのは同時だったと思う。
「おや、黒猫だ」
間宮の言うとおり、それは美しい毛並みの黒猫だった。
丁度何かに襲い掛かるような姿勢で飛び込んで来た黒猫は、僕達の存在に気付くと再び闇の中へと駆け込んで消えた。
去り際こちらを向いた黒猫の口に、やけに綺麗な魚が咥えられていたように見えたのは、気のせいだっただろうか。
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