14人が本棚に入れています
本棚に追加
遭遇
自分では酒に強いつもりでいた。
けれども今夜はキャンプ最終日ということで、どうやら飲み過ぎてしまったようだ。
だって今、俺の目の前には信じられない光景が広がっている。
「これって、どう見てもUFO、だよな」
自然と独り言が漏れた。
*
道に迷い、いつの間にか圏外になってしまったスマホのライトだけを頼りに山道を彷徨っていた雪人(ゆきと)の前に突如現れたのは、鬱蒼としげる木々で隠れるようにして鎮座している未確認飛行物体……UFO。
……泥酔した俺が見ている幻覚なのか、それとも映画のロケでもやっているのか。
しばし考えたが、やはりこれは酔った脳が見せる幻覚だと結論づける。
こうなったらとことん幻覚につき合ってやろうと、雪人がUFOに近づくと突然その扉が開いた。
「うわっ……」
反射的に身構えた雪人だが、扉が開いただけで、中からグロテスクな宇宙人の幻覚が出て来ることはなかった。
しばらく待ってみても扉は開いたままで、雪人は誘われるように中に入ってみる。
「……マジかよ……、すげー」
思わず感嘆の声が出てしまう。
UFOの中は幻覚にしてはやたらとリアルで、様々な複雑そうな機器で囲まれていた。
まるでSF映画の中に入り込んだような気分だ。
操縦席らしき場所に腰かけると座り心地の良さはこれまた幻覚のくせに最高で、歩き疲れていた雪人は背もたれに体を預け眠ってしまった。
「……ろ。起きろよ。起きろってば」
少年らしき声がしたかと思うと、恐る恐るといったふうに体を揺すられる。
「……ん……」
まず最初に飛び込んできたのは、真紅の瞳をした大きな目。
……すごい綺麗だ……。
まだ酒が抜けきっておらず、ぼんやりとした頭で雪人がそんなことを思っていると、きつい口調で少年が問い詰めて来る。
「あんた、誰だよ? どうしてここにいる?」
徐々に雪人の意識もクリアになっていき、はっきりと少年の全体像がつかめた。
真紅の澄んだ瞳と真紅の艶やかな髪。
顔立ちは幼いが端整で。頭は小さく八頭身どころか九頭身くらいに見える。歳は十代半ばくらいだろうか。
少年が幻覚だとは思えず、雪人はこのUFOは映画かドラマのセットだと思い直した。
普段、あまりテレビは見ないほうなので、自分が知らないだけで、この少年は多分今売れているアイドルか俳優なのだろう。
紅い髪は染めたもので、紅い瞳はカラーコンタクトと言ったところか。
最初のコメントを投稿しよう!