14人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、聞いてんの?」
少年の口調がどんどん苛々してくる。
「……悪い。道に迷ってしまって」
「とにかく、そこは俺の席だからどけよ」
雪人は少年の偉そうな態度に眉を顰めた。
勝手に中に入ったのは雪人が悪いが、それにしても生意気な態度だ。
「悪かったな」
少々ムッとしながら雪人は椅子から立ち上がった。
雪人は身長が180センチ以上ある。それより10センチは低い少年を見下ろすようにして、鋭くにらみつけてやる。
「とにかく誰か大人を呼んでくれ。おまえじゃ話にならない」
偉そうな態度には、こちらも偉そうな態度で返すだけだ。
芸能界のことなど知らないが、映画などのの撮影なら、監督なりプロデューサーなり大人がいるはずである。その人たちに会い、今自分がどの辺りにいるのか教えてもらおうと雪人は思ったのだ。
だが、目の前で精いっぱい上を向いてにらみ返してくる少年は言う。
「他には誰もいないよ。これは俺の……UFOだ」
「はあ?」
雪人は思わず首を傾げた。
「だから、俺はあんたら地球人から見たらエイリアン……異星人なんだよ」
「…………」
首を傾げたまま少年を凝視する。
「おまえ、もしかしてクスリとかやってる?」
「そんなもん、やってない。……まあ別に俺の正体について信じてもらわなくても構わないけど」
少年は鼻で笑う。
つくづく生意気なガキだと思う。
「……あんまり人をバカにするんじゃねぇぞ。とにかく早く大人を呼んで来い」
「だからそんなのいないって言ってるだろ。……まあ、いいや。これが普通の乗り物じゃない証拠を特別に見せてあげる」
そう告げると、さっきまで雪人が座っていた操縦席に再び座るように促される。
雪人が不承不承ながらも従うと、少年は複雑な機器を華奢な指で器用に操ってから、細いマイクのようなものに向かい言葉を放った。
「こいつを元いた場所へ帰してやって」
次の瞬間、目の前が暗くなり、気づけば雪人はキャンプ場へと戻って来ていた。
「雪人くん!? いったいどこへ行ってたの!?」
「ちょっと散策してくるって行ったきり中々戻ってこないんだもん。あたし、すごく心配したんだから!」
「本当にどこ行ってたんだ? 雪人。スマホも通じないし、マジ遭難したんじゃないかって焦ったぞ」
大学の友人たちが次々と傍に集まって来る中、雪人は茫然としていた。
「……俺、どれくらいの間いなかった?」
「うーん。三十分くらいかな。ったく、おまえがいないと女の子たちが盛り下がって散々だったんだからな」
「さあ、雪人も戻って来たことだし、まだまだ飲むぞー」
「わーい。飲もう、飲もう。雪人くん」
キャッキャッと女の子たちに取り囲まれながら、雪人は小さく呟いた。
「マジかよ……」
鈍く光るUFO。
真紅の髪と瞳の美少年。
あれは現実? それとも、夢……?
最初のコメントを投稿しよう!