14人が本棚に入れています
本棚に追加
再会
キャンプから帰って来て三日後の八月一日、雪人は今日から家庭教師のバイトを始めることになっている。
スマホの地図アプリを頼りにバイト先の小田切(おだぎり)家に向かう。
夏の午後の強い日差しに照らされていると、キャンプ最終日に起こった不可解な出来事は全て夢だったような気がしてくる。
雪人はUFOも宇宙人も幽霊も信じていない。
だから早々に夢だと結論付け、忘れてしまうことに決めたのだ。
そんなありえねー夢のことなんかより、今はバイトのことを考えなきゃ。
雪人は有名大学の二年生で、家庭教師のバイトは今度で二度目だ。
他のバイトよりもお金はいいのだが、初めての家庭教師のバイトのとき、生徒だった女子高生に告白された挙句つきまとわれ、散々な思いをしたので敬遠していたのだ。
今回紹介されたのを引き受けたのは、生徒が高校一年の男子だったから。
相手が男だったら、ストーカー化することはないだろう。
このときの雪人は、これから先にストーカーよりも厄介なものが待っているとは思ってもいなかった。
小田切家に着き、まずは母親と挨拶を交わす。まあまあ美人の母親は困ったように笑いながら、雪人に告げる。
「うちの子……空(そら)は、わがままで。先生を困らせることが多いと思いますが、うんと厳しくしてやってください」
「分かりました」
男子高校生なんて生意気の塊みたいな年頃である。雪人もそうだったからよく分かる。
二階に上がり、空の部屋の扉をノックする。
「はい」
「入るよ、空くん」
扉を開けた瞬間、勉強机の前の椅子に座り、こちらを見ていた空と目が合う。
「えっ……?」
雪人は愕然とし、
「あっ……」
空はその大きな目を見開いた。
「おまえ……」
そこにいたのは、キャンプの夜、例のUFOの中にいた少年。
幼いが端整な顔立ちも、ほっそりとした体も記憶の中にある姿そのものだ。ただ空は真紅の髪と瞳ではなく、淡い茶色の髪と同色の瞳の色をしていたが。
他人の空似?
一瞬そんなふうにも思いかけたが、ここまでの美少年がそうどこにでも転がっているとは思えないし、空の方も驚いた顔をして雪人を見ている。
最初のコメントを投稿しよう!