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雪人は満足してうなずくと、ケーキをテーブルに戻す。
空はどうやらチョコレートが好きなようで、二つのケーキのうち迷うことなくチョコレートケーキを選んで、今目の前でこれ以上はないくらいに幸せそうに食べている。
雪人はそこまで甘いものが好きではないので、ショートケーキには手を付けず紅茶だけを飲む。
「なあ、空。聞いていいか?」
「なに?」
「おまえら家族で地球に移住してきたのか?」
空がエイリアンならあの優しそうな母親も、今はまだ面識がない父親も、兄弟がいるなら兄弟も、みんなエイリアンということで……そんなふうに考えると、なんだか周りがみんなエイリアンだらけのような気がしてきて不安になってくる。
しかし、空の答は雪人が思ってもいないものだった。
「父さんも母さんもれっきとした地球人だよ」
「え? でも」
一体どういうことか、訳が分からない。
空はチョコレートケーキの最後の一欠けらを飲み込んでから、ゆったりと言葉を繋いだ。
「俺たちにはさっきのテレパシーの他にもあんたたちにはない能力があって。……そうだな。地球の言葉で言うと催眠術っていうのが一番近いかな。早い話が父さんと母さんに俺が息子であるって暗示をかけて思いこませたんだよ」
「なっ……」
「誤解しないで欲しいんだけど、別に無理やり洗脳したわけじゃないよ? 父さんと母さんにはもともと子供がいなくて、でも子供が欲しくて。だからなんの抵抗もなく俺の催眠暗示にかかってくれたんだよ。心の中に少しでも抵抗があれば、俺の力っていうか暗示はきかないから」
雪人は先程の空の母親の笑顔を思い出す。確かに幸せそのものの笑顔をしてはいたけれども。
「実は俺、雪人……先生にも術っていうか暗示かけたんだよね。あの山の中でのことを全部忘れるようにって。でも、あんたは全く忘れてない。先生の心の中に抵抗があったからだよ」
「…………」
雪人はどう返事を返していいか分からず、またしても頭を抱えてしまう。
……できることなら全て忘れてしまいたかった、と思う。
「そういや、おまえ、あの夜は髪と瞳が赤かったよな」
「ああ。うん。あれが本来の姿」
空はそう言ったかと思うと、ゆっくりと目を閉じた。
すると髪の毛の色がグラデーションを描いていき、やがて真紅に変わる。
そして次に目を開けたときには瞳も真紅になっていた。
「地球人も同じ髪色に染めたり、カラコン入れたりしてるから、このままでも俺は構わないんだけど。父さんと母さんが嘆くだろうし、高校の生活指導の教師にもうるさく言われるだろうし。……なあ、食べないのならそっちのケーキももらっていい?」
「どうぞ」
自分の前に置かれたケーキを空の方へとすべらせる。
空は二個目のそれもとてもうれしそうに食べ始める。
生意気だけど意外と真面目で、こんなふうにケーキを食べてる姿は子供っぽくてかわいいんだよなと雪人は目の前のエイリアンを見ながら思う。
そしてふと疑問に感じた。
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