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その背の高い男は銃を構え、銃口をぴったりと私に向けた。
「死んでもらう」
えっ? いきなり? 何の前触れもなく?
「前触れもなく? ふざけるな。お前が俺を嵌めようとしていることはお見通しだ」
なんだ、その言いがかりは。と思いつつも、男の手にある、冷たく黒光りするそれは、まさしく私の頭を狙い定めている。そして私は、その男に私の脳幹を撃ち抜くほどの腕があることを知っている。
ちなみに頭を撃つと即死するというのは俗説、本当は脳幹を射抜かない限りすぐは死なないらしいと、最近の読書で知りました。
ともあれ、その男は凄腕のスナイパーなのだ。
「あふあふ、でも、なんで、あらし(あたし)を」
私は呂律が回らない口調で言った。
「消される前に消せ、ということさ」
強面だが、必死すぎる顔がどこか滑稽。
私は実は落ち着いていた。
「分かった、殺し屋。交換条件よ」
表面上は怯えたように振舞って私は答える。
「凄腕のスナイパーが殺られる前に、孤独と哀愁たっぷりの見せ場を作る」
「……分かった」
え、もうわかったの? 我が子供ながら物分かりがよすぎやしないか? 男は銃をしまい、ポケットに手を突っ込んだ。
「あの、できればロマンスも」
少し照れたように上目遣いで言う。私より背は高いはずなのに。
「分かった分かった。準主役級にしてあげる」
私の小説の登場人物たちは、いったいいつからこんなわがままになってしまったのだろう? 私は苦笑して、ペンを置いた。
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