凄腕のスナイパー

1/1
前へ
/1ページ
次へ
その背の高い男は銃を構え、銃口をぴったりと私に向けた。  「死んでもらう」  えっ? いきなり? 何の前触れもなく?  「前触れもなく? ふざけるな。お前が俺を嵌めようとしていることはお見通しだ」  なんだ、その言いがかりは。と思いつつも、男の手にある、冷たく黒光りするそれは、まさしく私の頭を狙い定めている。そして私は、その男に私の脳幹を撃ち抜くほどの腕があることを知っている。  ちなみに頭を撃つと即死するというのは俗説、本当は脳幹を射抜かない限りすぐは死なないらしいと、最近の読書で知りました。  ともあれ、その男は凄腕のスナイパーなのだ。  「あふあふ、でも、なんで、あらし(あたし)を」  私は呂律が回らない口調で言った。  「消される前に消せ、ということさ」  強面だが、必死すぎる顔がどこか滑稽。  私は実は落ち着いていた。  「分かった、殺し屋。交換条件よ」  表面上は怯えたように振舞って私は答える。  「凄腕のスナイパーが殺られる前に、孤独と哀愁たっぷりの見せ場を作る」  「……分かった」  え、もうわかったの? 我が子供ながら物分かりがよすぎやしないか? 男は銃をしまい、ポケットに手を突っ込んだ。  「あの、できればロマンスも」  少し照れたように上目遣いで言う。私より背は高いはずなのに。  「分かった分かった。準主役級にしてあげる」  私の小説の登場人物たちは、いったいいつからこんなわがままになってしまったのだろう? 私は苦笑して、ペンを置いた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加