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(1)
そのときは、携帯ゲーム機を握っていた。
ちょっと揺れているな、とは感じたけど、すぐ収まると思ったし、ジンオウガはもうすぐ倒せそうだった。
でも、全然揺れが収まる気配がなくて、それどころか、どんどん大きくなっていった。
さすがに怖くなって、携帯ゲーム機を放り出して、ダイニングのテーブルの下に隠れた。
小学校のときの防災訓練で、そういう風に教わっていたからだけど、家でも、一番安全なのが、机の下だったのかどうかは、よくわからない。
しばらくして、揺れが収まってきたので、何が起こったのか知るために、テレビを点けた。
海が、燃えていた。
自動車で、移動する人がいた。
その速度では、海に追いつかれてしまいそうだった。
それに気づいた母が、テレビを消した。
ああ、そうか。
今のは、見てはいけないものだったのか。
わからなくなった。
あの自動車の人が、生きていなくて、
自分が生きている意味が、わからなかった。
卒業式はなくなったけど、4月から、予定通り進学した。
一緒に進学するはずだった、同級生の姿が見当たらなくて、パニックになった。
一度だけ電話をかけたけど、留守電で、理由を考えるのが怖くて、なぜ進学しなかったのかは、聞くことができなかった。
田舎も東京都だというところまで調べて、それで調べるのを止めて、大丈夫なことにした。
どういうわけか、前よりずっと、普通に学校に通うことができた。
とりあえず、9月までがんばろう。そう思っていた。
9月に、卒業式の替わりに、「卒業セレモニー」が行われることになっていた。
会えるかもしれないと思った。
人がたくさんいる場所は苦手だったけど、卒業セレモニーには出席した。
いなかった。
その日を当面の目標にしていて、次の目標を立てることができなかった。
それで、また、絶望しそうになった。
でも、ぎりぎり踏みとどまった。
同じ9月に、希望が出現したからだ。
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