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「というわけなんだけど」
早々に諦めたラーシュは部屋にアルネを呼び出し、現状判明しているだけの説明を済ませた。
フレドリカが聖なる精霊ではないと言い出したこと。その代わり、どうやら生きること、生殖に関することを司っていることと、昨日のいかがわしい事件はどうやらそのせいらしく、今後のことを考えても大変な事態が想定されると思われること。
昨日起こったことの仔細はどこまで話せばよいのか疑問があったが、そもそも気を失ったところを着替えさせて部屋に寝かせたのはアルネ以外にいないだろうから、言いづらそうにするラーシュの様子からも何が起こったか、ある程度は想像できるだろうと信じたい。
「……なんで私を巻き込むんですか」
「だってアルネにしか言えないだろ! こんなこと他の誰に言えって……」
「そりゃあそうですけど。ああ、もう。いいです。とにかく、周りにバレない方法を考えましょう」
ことの全容を聞いた時はひどくがっくりしていたが、さすがはアルネだ。姿勢を正して涙目で訴えるラーシュにいくつか追加で質問をしていくと、少し下がった間にだいたいの根回しまで済ませてきてしまった。
さらには、すべて整えて戻ってきたときにはくだんの男まで部屋に呼びつけ終わっていた。まだ昼を回ったところだ。仕事が早すぎる。
「と、いうわけで」
初めて会ったときのような鋭い視線で唸る男に、アルネはさっきラーシュが言った通りの台詞をなぞって説明を始めた。そうすると予想通り同じ言葉が返ってくる。
「……なぜ俺を巻き込む」
エイナルという名のこの男は、謁見の儀に来ていた修道院長の元で働いている下男で、何年前だかから各地の院を転々としていたらしい。
どんな人物か聞いても、まだ来たばかりだからよくわからない等とはっきりしない返答しか無く、名前といくつかの情報しかわからなかったと聞いた。上層部にもツテのあるアルネがそう言うのだから、きっと本当に分からないのだろう。
最初に中庭で会ったときにラーシュが育ったところの副院長が知っているような口ぶりをしていたから、入れ違いで同じところに住んでいたことがあったのかもしれない。
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