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目を疑った。でも、疑いようもなかった。
それは間違いなく、夢の中に居た彼だった。
私の衣服をいとも簡単に剥ぎ取って、恥ずかしい部分を全部強制的にさらけ出させて、私の中に秘めていたものを全て奪っていたあの悪張本人。
それが、旦那の背後ににこやかな笑顔で立っているのだ。
駄目、今振り向いたらバレる。
そんな心配を露とも知らず悪魔はただただ私に微笑みかけている。
どうしてそんなに余裕なのか。まるで、見つけてくれと言わんばかりに堂々と立っているのは何故なのか。バレてしまえば、私の人生が終わるかもしれないのに。
「何かあるのか?」
旦那が、不思議そうに首を傾げた。
私があまりにも悪魔を見すぎたせいだろう。
「あ、いや……」「なんだ?」
止める間もなく、旦那がくるりと振り向いた。
悪魔のいる方に
ああ、だめ!
思わず目をぎゅっとつぶるという意味のないことをして、私は旦那の罵倒だろう次の言葉を待った。
「……誰もいねぇよな」
つまらなさそうにため息交じりに、旦那は言った。
その言葉に吃驚して目を開くと、そこにやはり悪魔はいた。
「……え?」
旦那の反応が意味が分からず困惑しながら旦那と悪魔を交互に見る。
悪魔は、ただただにこにこと笑っていた。
もしかして、旦那が振り向いた瞬間に姿を消したのだろうか?
「え……えと、そこに……」
見つからない方がいいとさっきまでは全力でそう思っていたのに、真実を確かめたくて私は旦那の背後へと恐る恐る指を指した。
それに旦那は再び「あん?」と振り向くが目を暫く凝らした後、「やっぱり何もいねぇけど。虫でも居たか?」と言い面倒くさそうに欠伸をした。
悪魔がいるのに、だ
「あ、うん、虫かと思ったけど、勘違いかな……」
心ここにあらずに言葉を返しながら、私は確信した。
旦那に、悪魔は見えていない。
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