目の前に現れたそれは

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不法侵入者、と思って泣き続ける我が子を抱きしめ守るように抱きかかえながらその人物を見たが、通報、という二文字はすぐに私の脳内から消え去った。 何故なら、彼は 人であるようで、 人ではなかったからだ 「うん、賢明な奥さんだね」 彼は、にっこりとした笑顔を浮かべた。 その人としては美しすぎる笑顔に私の鼓動が耳まで届くほどドクンと鳴った。 肌は、漫画から飛び出してきたようなイケメンともいえる程綺麗な肌色で目を凝らしても毛穴が見えない滑らかさ。サラサラと艶めく黒髪は俯いても邪魔にならない程度の長さで、彼が少し動くたびに彼の顔を撫でるように動き、それが妖艶さを醸し出して目が離せない。切れ長の目は細く見えるのにその瞳は大きくて目を細めても瞳がしっかり見えるハッキリとした色で。整った鼻の下にある唇は分厚さは薄めで色は健康的な赤に近い色で、笑みを浮かべるたびに絵で描いたような弧を描き、ただひたすらに美しい。 1つ1つのパーツがただただ美しく、ああこの人は見た目は人だけど人じゃない、と思うのに充分な美しさだったが、人じゃないことを決定的にするのはあまりにもとんがりすぎた耳の上部分。 それに加えて、背中に生えた蝙蝠に近い形をした黒い翼だ。 多分、悪魔だ そう想像するには時間を要することはなかった。 私が子どもを抱きかかえたまま、これでもかと目を見開き呆然と彼に見入っていると、彼はにこやかに微笑みながら口を開いた。 「僕の声だけを聞いて」 ――そして、それ以降 私が口を挟むのは許さないとばかりに、言葉を延々と繋げ始めた
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