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苛立った気持ちのまま、千幸は家に帰った。
「ただいまー」
いつもなら佳鈴からの返事があるが、その日は何も聞こえない。部屋に入ると、佳鈴は座布団を枕にして横になっていた。
部屋の電気を着けると、佳鈴はゆっくりと起き上がり、弱々しい声で「おかえりなさい」と返した。心なしか顔色も悪い。
「どうしたの、こんな所で寝て」
「……ちょっと疲れちゃって。ごめんね、晩御飯の用意まだ出来てないの」
佳鈴は力無く立ち上がる。
「疲れてたんならいいよ、今日はどっかに食べに……」
台所に向かおうとする佳鈴を制しようと肩に触れて、千幸ははっとした。
「あんた、熱があるんじゃない?」
佳鈴はきょとんとした表情を浮かべ、棒立ちになる。千幸が佳鈴の額に触れると、確かに熱を持っていた。
「無理しないで、休めば良かったのに」
千幸は言ってから瞬時に、しまった、と思った。責めるような口調になってしまったせいで、佳鈴は落ち込んだ表情をしている。
「ごめんなさい」
「違う違う、怒ってるんじゃないよ。とにかく、熱測って早く寝なさい」
「晩御飯作ってない……」
「病人なんだから気にしなくていいの。それより、あんたこそ何か食べたいものとかないの」
尋ねるが、佳鈴は首を横に振る。
「えっ、そんなにひどいの? 明日病院に行こうか」
病院、という言葉を聞いた途端、佳鈴の表情は強張った。
「寝れば治るよ、大丈夫だから」
「そう……なの? まあ、とりあえず何か食べて、薬だけは飲んで」
佳鈴は素直に頷く。千幸はとりあえず今晩は早めに寝かせ、様子を見ることにした。
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