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眠っていた千幸の意識は、横から聞こえてくるうめき声によって現実に引き戻された。
うめき声の正体について、あまり機能しない頭でぼんやりと考える。
(佳鈴……うなされてる、悪い夢でも見てるのかな)
再び眠りにつこうと布団を被り直すが、聞こえてくるうめき声は次第に大きくなっていく。
もしかすると体調が今まで以上に悪化したのではないのか。千幸は心配になって体を起こした。
「佳鈴? 大丈夫?」
呼びかけに反応はない。そしてうめき声は徐々に叫び声へと変わっていった。
「う……うわああっ!」
「佳鈴!」
千幸は急いで豆電球をつけ、佳鈴の肩を叩いた。
「ちょっとどうしたの、ねえ!」
佳鈴の目がゆるゆると開く。千幸は安堵のため息をついた。
「大丈夫? どこか痛い? 悪い夢見た?」
佳鈴は声掛けに答えず、虚ろな目をしていた。まだ夢と現実の間を彷徨っているようである。
「……バチが当たったんだ」
「え、なに?」
「……私、お母さんが死んだとき、悲しかったけどちょっとほっとした……だからバチが当たったんだ……」
千幸は佳鈴のつぶやきを拾い、意味を考えた。
(この子はちょっと抜けてるところはあるけど、いつもしっかりしてる。家事が出来るのも、私と違って朝ちゃんと起きれるのも、全部母親を支えるためだったのかも知れない。
心を病んだ母親と向き合い続けることは、ずっとこの子に負担をかけてきたんだろう)
千幸は胸を締め上げられるような気持ちになった。
(ずっと一緒にいたのに、私はこの子が苦しんでることに気付けなかった)
佳鈴が再び何かをつぶやく。千幸は注意深く聞き取ろうとした。
「……ごめんなさい……」
千幸は佳鈴にそっと手を伸ばし、髪の毛をゆっくり撫で付けた。
「アンタは何も悪くない、謝んなくていいんだよ」
この声は佳鈴に届いているだろうか。自信は無かったが、千幸は続けた。
「バチなんか当たってない。ただちょっと疲れただけ。だから……なんも考えずにゆっくり寝なさい」
しばらく撫で続けていると、佳鈴は再び寝息を立て始めた。千幸はほっと溜息をつき、自分の布団に戻った。
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