鈴を揺らして

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式場の控え室には佳鈴と、千幸の弟直樹がいた。直樹は黙って単語帳をめくっていた。そして佳鈴は、ひどく疲れ切った顔をしていた。 「久しぶり、ちゆちゃんも来てくれると思わなかった。忙しいのにごめんね」 「…気ィ使わなくていいよ」 佳鈴の目の下にはくっきりとクマが浮かんでいる。しかし泣いてはいなかった。それが千幸にとっては意外だった。 (泣く余裕もないのかな) 「おじさんから、ちゆちゃんは忙しいから全然帰ってこないって聞いたんだ。だから今日は来れないかなって思ってた」 「ああ……」 千幸は答えに困り、言葉を濁した。忙しいから帰れないというのは半分は本当だ。しかし、別な理由もあった。両親の不仲に嫌気が差しており、帰りたくなかったからだ。 「高校生になったの?」 「うん」 「そっか、もうそんなに大きくなったんだ。どこの高校なの?」 「○○高校だよ」 佳鈴の答えた高校名は、その地域ではそこそこの進学校として知られているところだった。 「へえ、佳鈴って頭良かったんだね、意外」 「え~、なんでえ」 「だってあんた昔っからボーっとしてるイメージしかなかったもん」 「ちゆちゃんひどい」 軽口を叩いていると、弱々しくではあったが佳鈴が笑顔を見せた。それも、無理して笑っているという印象ではあったが。 それから千幸と佳鈴はぽつりぽつりと他愛もない話をした。 「ちゆちゃんは今どんなお仕事してるの?」 「部屋の内装……インテリアのデザイナーしてる」 「デザイナーってかっこいいね、ちゆちゃん昔からセンス良かったし、絵も上手だったもんね」 「そんな褒めても何も出ないよ」 話をしていくうちに、千幸は佳鈴がどのような子供であったか少しずつ思い出していった。親戚の集まりがあった時は、千幸・佳鈴・直樹の3人でよく遊んでいた。会った回数はさほど多くなったはずだが、それでもなぜか佳鈴は千幸によく懐いていた。そして、いつも千幸に絵を描いてくれとせがんでいた。言われるがままに絵を描いてみせると、たいそう喜んだものだった。 『すごーい! ちゆちゃんの描いた絵、ずっと大事にするね!』 今目の前にいる佳鈴も、一見思い出の中の佳鈴と変わらないように見える。しかし、どこか気を張っているように見えた。
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