鈴を揺らして

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寝起きの悪い千幸は、毎朝佳鈴に起こされるのが日課になっていた。 しかしその日は違った。千幸が何度目かの目覚ましでやっと起き上がった頃、佳鈴はまだ布団の中にいた。 千幸は寝ぼけ眼のまま佳鈴を揺さぶった。 「佳鈴? おはよう、起きないと遅刻するよ」 しばらく揺さぶった後、佳鈴は大儀そうに起き上がった。 千幸は朝いつもコーヒーだけで済ませて、佳鈴は毎朝トーストを食べる。その日も千幸はコーヒーを入れて、食卓についた。そこである違和感に気付いた。 「佳鈴、あんた今日は牛乳だけなの?」 佳鈴は困ったような笑顔を浮かべた。 「なんか、あんまりお腹空いてなくて」 「食欲ないの? もしかして体調悪い?」 千幸は立ち上がり、佳鈴の額に手を当てる。 「熱はないみたいだけど…」 「熱とかそんなんじゃないよ! 本当にお腹空いてないだけで、元気だから!」 心配されると、途端に居心地の悪そうな表情になる。 佳鈴の言葉を信じよう、食欲が無いときぐらい誰にでもある、きっと何ともないだろうーーそう思って、千幸はそれ以上は追求しなかった。
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