ＤＡＲＭＡ〈ダーマ〉

２・香奈の性分

　香奈の姓は西澤でなく山内である。夫婦別姓という主義でもなく実際は大輔とは婚姻関係など無かった。３年ほど前の職場で大輔と知り合い意気投合した関係であって、香奈自身は大輔に寄生していると言った方がしっくりとくる関係である。お互いに利用し合っているだけであり、絆など最初から無い。それを両者が悟られないように隠しているのもまたおかしな関係であった。

　香奈の出身は東京。ごく一般の家庭で育ち、普通高校を卒業し、当初志望していた美容関係の専門学校を卒業して美容室に就職した。父親は建設業のサッシなどを取り扱う金属工事職、母親は洋裁の工場勤務と職人気質の高い家庭だった。そのため、手に職を付けるのが生きる道と教え込まれていたのも美容師を志した理由といえよう。

　しかしもともと香奈にはある問題があった。それが手癖の悪さである。小学校の頃から万引き癖があり、駄菓子や小さな文具などを盗むことが頻繁にあった。高校になるとそれはCDや食品、下着など生活用品に及んだ。香奈の万引き癖は結局この歳になるまで抜けていなかった。というのも香奈はこれまでにその窃盗が発見されたことが無いのだ。そのため当然のようにチャンスがあれば窃盗を繰り返していた。美容室時代には従業員ロッカーから職員の現金を少しずつ盗んだ。結局誰にも気が付かれなかった。

　今回の石井の見舞金を２万円抜き取ったのも気が付けば反射的に抜いていた感じだ。それに罪悪感など無く、香奈にとっては日常の中のささいな行動だった。