1171人が本棚に入れています
本棚に追加
大輔との出会いは香奈35歳の時に勤めていた東京の運送会社だった。その頃には美容師の仕事にはほとんど触れておらず、事務などのデスクワークを好んで転々としていた香奈。理由は〝美容師はメンド臭い割に給料が少ない〟というもの。独立しなければ意味がないとよくボヤいていた。運送会社には事務で入っていたがダブルワークであり、夜はレストランのパートもしていた。
大輔とは会社で朝に顔を合わす程度だったが、ある時から大輔が会社に現れなくなった。
「西澤さんは辞めたんですか?」
上司に聞く香奈。人事ではないので社員の事情は知らなかった。
「いや、あいつは何か怪我したみたいだよ。今は労災で自宅療養暮らしをしているんだ」
「え? そうだったんですか。どこを怪我したんですか?」
特に心配ではないが、流れで聞いてみる香奈。
「肩から腕みたい。何でも荷崩れに巻き込まれて下敷きになったんだと」
「うわー痛そう・・・」
「建築資材だったから結構重い物さ」
「資材は大丈夫だったんですか?」
「へ?」何を聞くのかと一瞬意味が分からなかった上司。
「資材が壊れたら賠償とかこっちに来るじゃないですか」
「ああ、そういうこと? それは大丈夫だったみたい。住宅の屋根を葺く時に下地に敷くアスファルト・ルーフィングっていうロール状の筒だったから破損したりはしなかった」
「ふーん・・・」
荷崩れに巻き込まれるなんてドジな男だなとしか思わなかった香奈。
そんなある日、地元のホームセンターで大輔にバッタリと会った。
「あれ? 西澤さん」
「あ、事務の・・・」
「山内です」
「そうだ山内さん。久しぶりだね、何してるの? 買い物?」
「まぁ、そうです。怪我は大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど、痺れが取れなくてまだ休みをもらっている」
その時香奈は直ぐに怪しいと感じた。
「そんなに休んで大丈夫なんですか?」
「何が?」
「お金が続くんですか?」
「有給だもん。暇との戦いだよ。なんてね、リハビリさ」
「有給なんですか?」
「そりゃあ労働災害だから当然休業保障されている。あ、山内さん昼飯でも食べに行く?」
これをきっかけに二人の付き合いが始まった。
最初のコメントを投稿しよう!