1・男の生業

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「どうしましたか?」  サイドガラスを下ろしながら運転手が聞いた。高齢ドライバーだった。 「どうしましたじゃねぇだろっ! お前、人の足踏んでおいて逃げるつもりだったろっ?! あぁ?!」  えらい剣幕で怒鳴り散らす大輔。周囲は騒然とし、観光客も注目している。ただ大輔の尋常じゃない様子に誰も近寄ろうとしなかった。 「えぇ? 踏みましたか?」  おののきながら聞く運転手。何かに乗り上げた感覚は無かった。 「踏んだよ! 分からねぇのか、ボケッ!」  今にも掴みかかりそうな勢いの大輔に運転手は身の危険を感じ、サイドガラスを上げた。これは「ゆすり」だと感じたからだ。 「てめぇ、閉めてんじゃねぇよ! 出て来いよ!」  運転手は車から出ることをしなかった。すると30代程の体の大きな男性が間に入ってきた。 「ちょっとドライバーさん、落ち着いて下さい。どうしたんですかっ」  と大輔の肩に手を置いてなだめた。 「この人が足を踏んだんですよ」  相手が屈強な男と見るや、突然落ち着き払う大輔。 「そうなんですか、大丈夫ですか?」  と男性が大輔の足を見た時、突然、 「イテテテ~ッ!」と右足を押え路上に倒れ込む大輔。一部始終を見ていた観光客らは眉を潜めた。 「警察と救急車を呼んでくれぇ~! イテテテッ!」  ダダをこねる子供のように路上でのたうち回る大輔。男性は〝コンコン〟とサイドガラスを叩いて、 「おじさん、一応出て来て下さい。私が付いていますから」  と運転手に声を掛けた。  恐る恐るドアを開ける運転手。 「すみません・・・」と男性の方に頭を下げた。
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