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「それでどのタイミングで足をタイヤが踏むわけ?」
「だからぁ、おまわりさん、僕が右足を伸ばして立っていたんですよ」
「うん、その時に石井さんがバックしたんですよね?」
「そう、急にね」
地元の警察が来て現場で検証となった。救急車は後部で待機していた。
「真後ろに立っていたの?」
「いいえ、後ろには人はいませんでした。確認しました」
運転手は石井というようだ。訴えるように警察に言っている。心配そうに石井の後ろに立っているのは妻のようだった。
「何度も言いますけど、左後輪の場所ですよ。だから車の左側面」
「そこで足を伸ばしていたら危ないでしょ。そう思わなかったの?」
警官は二人来ていた。大輔が痛がるので一人が大輔に肩を入れて支えての検証となった。
「まさか突然勢いよくバックするなんて思わないですよ」
「そんな、勢いよくバックなんてしていません。すぐ後ろにマイクロバスがあったのを確認していましたから・・・」
「どのくらい下がったの?」
「30から50cm位だと思います」
「西澤さんはタイヤが踏むくらい石井さんの車に寄っていたんだぁ」
「その時はお客さんでごった返していましたから」
「ふーん・・・」
疑うような目で大輔を見る上司と思われる警官。
「おまわりさん、何か疑っていないですか? こっちは踏まれているんですよ? イテテテッ、もう病院に行かせて下さいよ」
顔を歪める大輔。警察も怪しいとは思っているが診断書を見ないことにはそれを断言できない。本当に踏まれて骨に異常が見受けられるのかも知れないからだった。しかし普通車両のタイヤにつま先を踏まれたところで怪我をするなど聞いたことがなかった。
「お互い住所の交換をして下さい。基本的に事件性が無ければ我々でなく保険屋さんの仕事に移行します。石井さんは免許証を見せて下さい」
財布を取り出すと免許証を見せる石井。
「こっちは車じゃないんだから、そちらの保険だけの問題でしょ?」
「まぁ、そうなるでしょうね・・・」
と石井の住所を書き写す警官。そのメモを大輔に渡した。すると、
「今は那須の別荘の住所にいます。これが電話番号です」
と石井は持っていた自分の手帳にそれを書き留めると大輔に渡した。
「石井さん、保険屋さんの電話番号は分かりますか?」
「ハイ。分かります。今電話します」
石井は持っているスマホを巧みに操作して電話を掛けている。
その後、大輔と電話を替わり保険屋と大輔が直接話をした。後ほど大輔の診断書を見て今後の道筋を検討することになった。
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