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3・二人の生活
それからはよく会うようになった大輔と香奈。何かお互いに同じ臭いを感じるとも言うべきか、二人にだけ分かる妙な感覚があった。
ある時居酒屋で飲んだ二人。
トイレに立ちながら「会計して来るね」と席を立った香奈。大輔が金にシビアなことは知っている。帰って来ると「一人4,230円ね」と大輔に端数まで付けて告げた。
「3,860円だろ」
とスマホを見せて言う大輔。
「え? そう?」
内心ギョッとする香奈。
「消費税とお通し代300円を入れてもこの額のはずだ。レシート見せて」
「捨てちゃった」
「どこに? レジの前?」
「女便所のナプキン入れ。トイレ行く前に会計したから」
瞬発的に大輔が確認できない場所を言う香奈。
「そんなとこに捨てるなよ。拾いにも行けないだろ」
「取って来ようか?」
「いいよ。間を取って4,000円払ってやるよ」
「・・・・・・」
「何か不満? 香奈の方が損してる?」
「だって西澤さんの方が高いお酒を飲んでいたじゃん」
「お前も飲めば良かったろ。そうなるから割り勘の時は高い酒を飲むなんて常識だろ? 飲んだもん勝ちだよ、バカだなぁ」
いつも大輔に言い包められてしまう。自分でコントロールできない初めての男だった。しかし香奈はそんな大輔を疎ましくは思わなかった。何故だか尊敬の念さえ抱いてしまうのだ。そんな二人が交際に発展したのも自然なことだった。
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