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エピソード『同じ風景をずっと見ている』 第2話
「こんにちは」
頭が動かせないので、目だけで声の主を探る。
左目に眼帯をしている少女だった。
前と同じように私を見上げているのだけど、その目はどこかおぼろげだ。
前に見たときとの相違点は服装だった。
以前は制服だったのだが、今日は巫女服を着ている。
士業をやっていると言っていたような記憶がある。
つまり、祈祷師とかそういった師業だったのだろうか。
声を発しようとするも、舌に何かが絡みついているかのように動かず、声どころか息さえできていないようだ。
「……苦しいの?」
そう言われても、私はもう感覚が麻痺してしまっていて分からない。
最初は苦しかったのかもしれない。
けれども、今はどうなのだろう?
もう痛みさえ感じていない。
最初は意識が飛んでしまうほどの痛みがあったような記憶があるのだけど、今はもうその痛みさえ忘れてしまった。
私はどうして動けないのだろう。
どうして声さえ出せなくなったのだろう。
どうして私はここに居続けているのだろう。
どうしてだっけ?
何故、私はここに居続けているんだっけ?
「自殺者は自殺行為を繰り返すという話は本当だったんですね。繰り返すと言っても、あなたは違うようで」
稲荷原流香は憐憫の色に染まった瞳で私を見上げている。
「あなたはこの公園の木で首つり自殺をした……それだけの事です。思い出せませんか?」
自殺?
それは私の選んだ事だけど、まだ死ねていない。
私はずっとここにいる。
何故かここに居続けている。
まだ死ねていないはずだ。
私は首を吊ったはずなのに、この世界から解放されないまま、まだここにいる。
「首つりの場合、死んだ後も首を吊り続けているのですね。縄はもうなくなったというのに、首を吊ったままの状態で居続けて……哀れね」
私は死んでいる?
嘘だ。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。
私はまだ生きていて、こうしてあなたに見られているじゃない。
「声が出せないのでしょう? 首を吊ったせいで、舌が飛び出してしまっていますよ。顔を動かしたくても首を吊った状態だから動かせないのでしょうね」
舌が絡まっているワケでは無かったのね。
舌が飛び出してしまっていて、しゃべられなくなっていただけだったの?
頭を動かせない理由もなんとなく理解できる。
そうだったのね。
私は死んでいたのだけど、死んだままの状態でずっと居続けていただけなのね……。
魂?
幽霊?
私はそんな状態という事だったの?
「エペタムというアイヌに伝わる妖刀があります。化け物を退治する時にしか使わないのですが、特別にあなたに使ってあげましょう。私にできる魂の救済方法がこれだけしかないだけなのですが……」
私は解放されるの?
死んだ私が解放される?
解放された私はどうなるの?
ここから下ろされただけで終わってしまうの?
その後、私はどうなるの?
「エペタムで斬る前に言っておきます。おめでとう、と」
斬られる事を祝ってもいいのだろうか。
おめでとう、と。
「ようやく解放されるのですからね、あなたは。首を吊ったままの幽霊であるあなたを視た小さな女の子にお礼を言っておいてください。両親には女性の首吊り死体が見えないからと、その子の両親に相談されたので、私が様子を見に来たのです」
ようやく私は他の風景が見られるようになるのだろうか。
それだけが不安だった。
エペタムとやらで斬られた後、もし意識が残っているのならば、その時にどうすべきか考えよう。
首を吊ったままの状態で居続ける事よりも地に足が付いていて気楽なのだろうから……。
~ エピソード『同じ風景をずっと見ている』 完 ~
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