赤鬼と青鬼

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赤鬼と青鬼

 次の日 企画課のYが年明けのイベントの資料を持ってきた 仕事の話を終えた帰りがけ 「ちょっといいかな?」 私を立ち並ぶ書架の陰まで誘い 「実は俺 Fです」 と言った  私がK宛に書いている手紙のすべてを読まれている相手 私のすべて知り尽くされている相手が彼 私が総務課にいた頃 彼には親切にしてもらった エクセルの使い方や提出資料の作成の仕方など細かく指導してくれた 重い荷物の運搬や整理など私にはキツイ作業を手伝ってくれた 周囲の人は彼が私に気があるのだと密かに噂した だが私にその気はなかった なぜなら彼は100kg以上ある巨体で年齢も30代後半 私は22歳だから  どういう態度をとればいいのか困惑している私にFは言った 「気になって調べてみたんですが あなたの借りている住宅 同じ建物の右隣をKの母親が借りていることになっています」  私は卒倒しそうになった Fは続けた 「古い公営住宅なので天井に仕切りがない可能性があります」  私は思わず書架にすがりついた 「俺が調べる訳にいかないので 警察に相談した方がいいと思います」 「あの どうして あなたが『泣いた赤鬼』の青鬼になろうと思ったんですか? Kに恩義でもあるんですか?」 「Kの妹さん 美容室を始めた頃 いっしょに手伝っていたんです 本当にあなたとよく似ていました 俺 彼女に一目惚れして少し交際してました いっしょに登山した時 事故で彼女 亡くなったんです 俺が死ねばよかったのに・・・それ以来 Kとは親友であり 憎しみの対象でもありました 本当に申し訳なくて Kの幸せのためなら何でもしたいと思って」 「じゃあ警察に相談する前に今夜 私の家に来ませんか? 演技で私を襲ってみませんか?」 「それは・・・」 「警察に相談したら確実にKちゃん 逮捕されるよね 隣に居れば・・・」  私はなぜか本当にKが心配になったのだった 私は体調不良を理由に家に戻った 隣の家のチャイムを鳴らす 「Kちゃん Kちゃん 居るなら返事して お願い 早く出てきて」 すると玄関のドアが開き なんとKが出てきた  私は迷わずKに抱きついた Kも私を抱きしめた 「バカだわ Kちゃん こんなことしなくても私はKちゃん 好きなのに」 「おいで」 Kちゃんの住んでいる隣の家に入る 押入れの天井板をずらす 天井裏は思いのほか広い空間 私の家の天井裏まで続いている しっかりした柱と柱の間に寝そべるための板が渡されている 「ここから覗いてごらん」 ちょうど私の手紙を書く机が見える 「毎日 見てたのね」 「毎日 見てた」 「どうだった?」 「可愛かった たまらなかった 抱きしめたかった」 「私だって 抱きしめてほしかったのに」  Kちゃんと私は天井裏の覗き穴の上で初キッスした
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