電話

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 私は北海道の田舎町の役場の職員  去年までは総務課で事務用品の発注とか上司の打ち込み作業の手伝いをしていた 今年の春から図書館勤務  図書館では不特定多数の町民の方々と話する機会が多く 薄暗い役場の庁舎内でくすぶっているより気持ち的に気楽  17時30分 仕事を終えて帰宅 古い町営住宅を借りて住んでいる 職場からは歩いて15分の距離 適度な運動になってよい  家の郵便受けに きれいな水色の封筒で美容師Kから手紙が届いた 何だかドキドキ 文通なんてしたことないから相手が誰であっても封筒にハサミを入れる瞬間の緊張は子どもの頃以来の新鮮な感動 初めての手紙で いきなりのお願いがあります 今夜午後10時ちょうどに美容室に電話をかけてほしい そして僕の愛の告白に適当に返事してください 僕が電話する横で僕の母親が耳を澄ませて盗み聞きしています 僕は母親に恋人がいると嘘をついてきました 母親の勧める女性とお見合いしたくないから 本当に申し訳ありませんが演技してください 『ああ電話してたら会いたくなっちゃった これから家に来て』 甘えた声で そうセガンでください 本当にあなたの家に行ったりはしません どこだか知らないし(笑) きっときっと よろしくお願いします K  いきなりのお願い ズーズーし過ぎる そんな役目 私には向いていない もっとサバサバした快活な女の子に頼めばいいのに 誰か私の代わりに電話してくれそうな女の子いないかな?  考えてみると この町には友だちと呼べるような人が誰もいない 仕事と家の往復で 職場の仲間以外 知り合いさえいないことに気がつく  気が重くなる 別にお願いされたからといっても電話しなきゃならない義務はない かと言って無視する勇気もない  気がついたら、もう10時だ。私は震える手で美容室に電話をかけた。
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