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背後から、か細い声が聞こえた。
僕は女が居ることを思い出した。
「良かったらどうそ・・・・・・」
聞きまちがいではないと思う。
月明かりのせいか女の顔色は悪かった。
「良かったらどうぞ・・・・・・」
女は腰を浮かし、座っている位置を少しズラすと、手を添えて隣の空いているシートを示した。
僕は促されるまま、人形の横に腰を下ろした。
直視してはいけない様な気がして、僕は満月を見つめたまま声をかけた。
「人形とお月見ですか?」
「えぇ、遺人形です」
「イニンギョウ?」
「はい。遺人形です」
さっき遠くから見えた違和感の正体は、服を着ていて、姿勢正しく海の方を見て座らされていた。
顔は〝無〟だった。
「本当はラブドール位の、等身大が欲しかったんですけど・・・・・・」
女の口から出た言葉に少しドキッとした。
「すみません、イニンギョウって何ですか?」
「遺体の〝遺〟に〝人形〟で遺人形です。恋人が死んで何年経ったのか忘れちゃうくらい、気付けば人形作りに没頭する毎日です」
僕は再度人形を見た。
やっぱり顔は〝無〟だった。
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