月夜のおまじない

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「ご自分で作ったんですか?」 「はい。専門に依頼することも考えたんですけど、結構な金額で。二十センチ位のフィギュアで十万円はします」 「等身大の人形って・・・・・・」 「ラブドールってご存じですか?」 「えぇ、何となく」 「いわゆる男性の性的欲求を満たしてくれる、本物そっくりの女性の人形です」  女は冷静に淡々と喋り続ける。  話の内容とのギャップにドキドキしなが、僕は平常心を保った。 「彼がいなくなって何もすることが無くなった矢先、深夜番組でラブドールを制作している会社に、スポットを当てていたのを何となく見ていたのがきっかけでした。その精巧な作りに感心し、彼のコピーが欲しいと思いました。それからは問い合わせしたり、実際に足を運んだり。最終的に自分で作ってみようかと。この子はまだ試作品です」  女は人形を見つめる僕に言った。 「顔が描かれていないようですが」 「不思議と思い出せないんです」 「写真とかは?」 「処分しました」 「全部?」 「はい。全部残らず」 「へぇぇ」  僕は言葉に詰まり、繰り返される波の音に消えていくような返事をした。
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