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「普段は人形と会話を?」
馬鹿な質問は勝手に口からこぼれた。
「ええ。会話と言っても、私の独り言です。返事はありませんが、聞いてもらうとスッキリするんです」
そう言った女は人形を膝に乗せた。
「この子と一緒に起きて一日が始まります。一緒に食事をし、一緒にテレビを見て、一緒に布団に入って眠る。この子は私の生きがいです」
「さっき、この子は試作品だと」
「はい。試作品です。私のアイデア次第で更新されます。作り始めた頃は、表情をつけてみたり、素材も硬かったりと、色々試みたのですが。今はこの子に落ち着いています」
「では今までの試作品は家に?」
「いいえ。一人しか愛せませんから。ちゃんと供養してもらい、新しい子を迎え入れます」
僕は思わず笑った。
「あなたも私を変人だと?」
僕はこれ以上笑うと失礼になると思い、口元を手で覆って答えた。
「いえ、あなたは真っ当です。生きる目的があり目標もある。この子の事も人形だとしっかり判別した上で生活を送っています。常人と言われる僕より生命力を感じます」
「ジョウジン?」
「はい。僕は普通の人ってことです」
今度は女が笑った。
「さっき月を見て泣いていましたよね? 一人でフラフラ砂浜を歩いて月を見上げて涙して。人形を抱いた変な女に声を掛けられノコノコ隣に座るあなたが常人。普通って何なんでしょうね」
僕は女に誘われるように一緒に笑った。
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