ストロングがゼロ

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 学祭のミスターコンテストに出ない?と言われて、森谷が思ったのは「見に来てもらえるかな」ということだった。  ミスターコンテストといっても森谷の大学は偏差値は高いわりに地味大で、代理店などまったくからんでない手づくり舞台だ。それでも毎年かなり盛り上がる。  音楽、拍手につつまれ、華々しく登場する自分を、七尾が応援しにやってくる。手なんかふったりして。こっちも合図などおくったりして。七尾は写真撮ったりして。  次の瞬間、5tくらいの水圧におしつぶされるような勢いで、猛烈な羞恥に襲われた。  授業参観か。保護者か。小学生か。「見に来てもらえるかな」ってなんだそれ。  地獄みたいな気分とはこのこと。 「や、あんまりそういうのは」  しかし、実行委員をしている友人は、粘り強く交渉してきた。聞くと出演者が足りないらしい。  どうしても集まらない場合は考える、と言って、その場は解放してもらった。  友人は、「俺が俺が」な自薦アッパーな奴らだけじゃ、つまらないと思って、森谷に声をかけてきたにちがいない。  ようはガチ勢の中の毛色がかわってる担。  そう理解していながら、気のりしないそぶりをしながら、声をかけられて、実はまんざらでもない。  控えめにいって森谷みたいなナードでギークな感じは流行ってるし、最近確実にモテてる。わかりやすいイケメンよりも自分みたいなタイプに風が吹いている。出たら優勝するかもしないかも。   そしたら、七尾はどんな顔をするだろうか。大事なのは、七尾の気をひくことができるかできないか、だ。  出演したら見にきてくれるかな。
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