ストロングがゼロ

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 森谷は、ガラガラと玄関の引き戸を開けて、ばあちゃんちにあがりこんだ。今は七尾が一人で住んでいる。  七尾はすっぱだかだった。身につけているのはスニーカーだけ。ソファで新聞を読んでいた。 「なにしてんの?」  びっくりしてすっとんきょうな声がでた。  七尾は森谷のTシャツを脱がせた。さらにベルトを外し、パンツをひっぱり下げる。 「えっ……え?」  困惑する森谷を放置して、七尾は「あー、ノーパンだし、なんかあったかいし、」と人の服に足をとおしながら文句を言った。Tシャツを着ると、「じゃ」と言って、外に出ようとする。 「て、おい、何があったんだよ」  服をひっつかんで、とめたが、「かわりにこれ、やる」と履いてたスニーカーを渡された。そして裸足で家を出て行った。  パンイチの森谷は、なにもかも諦めて、ソファにかけてあった毛布にくるまった。スニーカーを胸にだいて、そのままいつの間にか寝てしまった。黒のコンバース。布とゴムと土の匂いがした。
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